アンティークショップの出来事
骨董屋の店主、モズヤ・パインフィールドは、その昔イーストウッド村長と1人の女性をめぐって恋の争奪戦を繰り広げ、敗者となった後もずっと独り身を通してきました。
断絶状態だった2人が旧交を温める様になったのは、5年前彼女の命日に墓所でばったり出会い、それまでのわだかまりが氷解してからなのです。
でも、相変わらずモズヤが村長の屋敷に一歩も足を踏み入れないのは、彼女への想いをいまだに引きずっている証でしょうし、村長もまた彼への配慮なのか、すべての再婚話を断り続けているのでした。
MOKI村の知恵袋と呼ばれるだけのことはあり、非常に多趣味で幅広い知識の持ち主である彼のもとには、村長のようなアンティークファンばかりでなく、レアものコレクターのネイビー・ディップや工房のライス・ライター、そしてあのシー・プリーズまでもが暇を見ては訪れています。
本業より相談事や質問に応じるのに忙しいモズヤは、MOKI村におけるセラピストの役割も担っているといえるのではないでしょうか。
ある日、モズヤはいつも以上に大忙しの一日を送りました。
まず、スカンクに変身したドン・クリスチャンセンが、キキモラと会った時の記憶を甦らす方法を知りたいと言って、早朝から店に飛び込んできました。
ドンの身体から漂う大量の香水の臭いは耐え難いものでしたが、豪放磊落なこの男に潜む繊細さを微笑ましく思い、そっと窓を開けるモズヤなのでした。
そして、悪臭以上に驚きなのは、ナルシストで有名なうさぎのデイルが、ドンにぴったり寄り添っていることです。
肌身離さず持ち歩いているお守りの鏡を失くしたと聞き合点がいったものの、スカンクと美少年の組み合わせには、笑いをかみ殺さずにはいられません。
さて、次にやって来たクルス親子も難しい問題を抱えていました。
ロザリーの説明により、モズヤはすぐさまフローラが思春期の少女に多く見られる拒大症であると看破したのですが、心の美しさの重要性がこの症状を治す薬にならないと知っているだけに、どう対処してよいものか途方に暮れてしまったのです。
重苦しい雰囲気が広がる中、突然ノックの音がして最近村に越してきたレパードのドッティがひょっこり顔を覗かせました。
「あの、こんな物を拾ったんですけど・・・」
彼女が差し出したのは、デイルが失くした例の手鏡でした。
「それだ!それさえあれば万事上手くいく筈だ!」
普段は物静かなモズヤが、珍しく興奮した様子で叫んだものですから、一同びっくり仰天して腰を抜かし、デイルに至ってはこの機に乗じてドンに抱きつく始末です。
そんなことにはお構いなしで、彼はまずフローラに手鏡を渡し、自分の顔をよく見るように言いました。
「君は君自身を愛せないどころか憎んでいるといってもいい。だから、大人になること、つまり成長そのものを拒絶し、トランクの中に入ってしまうんだよ。」
その言葉を聞いたフローラが、恐る恐る鏡の中の涙でくしゃくしゃになった自分を見つめたところ、なにやら不思議な気持ちになってくるではありませんか。
「あたし、もう二度とあんなせまっ苦しい場所はごめんだわ・・・」
クルス親子は何度もお礼を述べた後、踊るような足取りで帰っていきました。
「己を愛せない者にこのナルシストの鏡は効果覿面だったな。ところで貴方は鏡を覗いていないのですか?」
モズヤの質問にドッティは恥ずかしそうにこう答えました。
「鏡を見るのは、もううんざりなんです。でも、だからといって自分を嫌いなわけではありませんわ」
「貴方はとても聡明なご婦人ですね」
とかく美人とは、その美しさを褒められても心に響くことはありませんが、性格や頭の良さになると話は別なのです。
驚いたような眼差しでモズヤを見つめるドッティは、心の中で沸き立つ思いに戸惑いを覚えるのでした。
「で、このオレはどうすりゃいいんだい?」
待ちくたびれたドンが口を挟みました。
「簡単なことさ。君もデイルの鏡でとっくりスカンクの姿を拝んで、今の自分を好きになれば万事めでたしじゃないか。」
日ごろから酒飲みの深酒による記憶喪失を苦々しく感じていた事も手伝い、内心いい気味だと思うモズヤでしたが、ドンがあっさり彼の言葉に従ったので拍子抜けしてしまいました。
「うん、なかなかの男前じゃないか。これならパンダにも負けていないぞ。・・・パンダ!?」
鏡を覗きこんだドンは、なんと昨晩キキモラに願った変身願望を思い出したのです。
「そうだ!オレはパンダになれば商売がもっと上手くいくと考えていたんだ!」
そう叫ぶや否やドンがあっという間に店を飛び出していったので、取り残されたデイルはめそめそ泣き出しました。
「いいさ。ドンがアカリスに戻ったって僕の気持ちは変わらないもの。だって彼の心を愛したんだから」
その後、どんなに周りのものが説得しようとも、デイルが再びあの手鏡を見ることはなかったそうです。
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コメント
「そうだ!私もパンダになればダイエットがもっと上手くいくと考えてたの!」by 拒大症yun なーんて(笑)
こんなことは張りきってかける私ですが
いつも 物語の中のmomoukiさんの言葉の表現に脱帽デス。m(._.)m
投稿: yun | 2005年10月16日 (日) 20時03分
こんな長くて拙い物語を読んでくださるyun様の心意気が嬉しいです!(涙)
投稿: momouki | 2005年10月16日 (日) 21時13分