ライス・ライターの密かな楽しみ
MOKI村が誇る工芸の魔術師ライス・ライターは、気に入らないお客には塩をまく頑固一徹な職人である上、人付き合いが苦手なのでシー・プリーズ以外親しいものもほとんどいません。
寝食を忘れ仕事に没頭するばかりでは、さぞかしストレスが溜まろうかと思いきや、趣味が生業である幸運に、苦労など感じないという返事が返ってきます。
そんな彼の唯一の楽しみといえば、自分で作った美しい木馬に乗ってゆらゆら揺られることでした。
木馬の固いたてがみに頭をあずけ、ライスの想いは遠い過去へと彷徨って行くのです。
その昔、人里離れた山奥に捨てられていたライスは、通りかかったジプシーの荷馬車を引いていたナタリーという名の馬に拾われました。
真冬だというのに木綿のロンパースしか身につけていなかった彼は、ガチガチ歯を鳴らしながらナタリーのお乳を飲み、柔らかなたてがみにくるまって体を温めました。
彼女は、少し前に子供を亡くしたばかりだったのでことさらライスに愛情を注ぎ、旅の一座から支給されるわずかな食べ物もほとんど彼に与えてしまうのでした。
まだ赤ん坊だった彼には、それがどういう結果を招くかなど知る由もなく、やがてすっかりやせ細ったナタリーが、クリスマスの朝に目を覚まさずジプシー達から置き去りにされても、そのかたわらでずっと泣き続けるしかなかったのです。
その後、ライスがどうやって生き延びて今に至るかは定かではありませんが、永遠の母ナタリーへの想いは決して色褪せることなく、彼の心を捕らえて離さないのでしょう。
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コメント
ライス・ライター氏にそんな過去があっただなんて…
私の涙のツボを押しまくりです。馬も大好きですので…
投稿: mozuya | 2005年11月 6日 (日) 11時20分
コメントをありがとうございました<(_ _)>
馬は、この世で最も美しい生き物のひとつだと思います。
投稿: momouki | 2005年11月 6日 (日) 12時29分